高村道夫(12)中学生
南一郎(12)中学生
高梨弓子(29)家庭科の教師
教頭(50)
男子A(12)
女子A(12)
道夫の父(42)
道夫の母(42)
○高村家・外観(朝)
「高村」の表札。古びた日本家屋。雪が屋根に薄らと積もる。
○同・洗面台・中(朝)
高村道夫(12)が髪を強く伸ばしながらドライヤーをあてる。ひどい癖毛の道夫。アフロのようである。
一瞬真っ直ぐになる髪。所が、すぐに元通りである。
うな垂れる道夫。
○同・居間・中(朝)
テーブルでご飯を食べる、道夫の父(42)母(42)。共に道夫同様の癖毛。
居間に現れる道夫。
二人を眺めて、自分の頭を触り、唇を噛む道夫。
○久米私立久米中学校・外観(朝)
鉄筋の校舎。地面に少し積もる雪。白い息を吐き、登校する学生。
○同・2年1組・中(朝)
席に座る道夫。と、後ろから手が現れてニット帽が取られる。
道夫「あっ!」
南一郎(12)が、道夫のニット帽を摘み、立っている。
一郎「おはよう、鳥の巣」
道夫「うるせえ、早く返せよ!」
一郎「そうだな、あんまり触ると天パがうつ
る!」
帽子を道夫に投げつけて去る一郎。サラサラの髪をかきあげる。
道夫、一郎を見ながら、前髪を手で伸で引っ張り伸ばす。
道夫「くそ・・・」
唇を噛む道夫。
と、教室に高梨弓子(29)が入ってくる。
小柄で、ウェーブがかかった黒髪に大きな瞳という容姿。
髪を伸ばしながら弓子を見る道夫。
弓子を不審な顔で弓子を見る生徒たち。
男子A「誰?」
と、続いて教頭(50)が入ってくる。
教頭「おはようございます」
会釈や挨拶などする生徒たち。
弓子、笑顔で教壇に立つ。
教頭「冬休み明けから残念なお知らせですが、
皆さんの担任である山本先生が、御病気で一カ月ほど入院されることになりました」
ざわつく教室。
教頭「代わりとして高梨先生に、皆さんの担
任として来ていただきました」
頭を下げる弓子。
弓子「高梨弓子です。教科は美術です。短い
間ですが、よろしくお願いします」
一礼する生徒一同。
○同・げた箱・中(夕)
上履きからスニーカーに履き替える道
夫。そこに、生徒に囲まれて歩いて来る弓子。一郎もいる。
女子A「先生、ハロプロ系って言われな
い?」
弓子「うまいこと言ってー!」
頭をかく弓子。道夫、それを見つつ帽子を被る。
と、一郎、道夫に向かい、
一郎「あれ、もじゃじゃん?もうお帰り?」
道夫、無視して去ろうとする。
弓子、道夫に対し、
弓子「高村君・・・だっけ?」
道夫、弓子を見て会釈する。
一郎「先生、違います。鳥の巣君です」
道夫「うるせえぞ!」
一郎「怖!あんまり騒ぐと小鳥が泣き出す
ぞ!ピーチクパーチク!」
髪をかきあげる一郎。
弓子、一郎の前に立つ。道夫に向かって笑顔で、
弓子「帽子、似合ってるわね」
道夫、唇を噛み、去っていく。
弓子「えっ?道夫君・・・」
弓子、道夫を目で追う。
○高村家風呂場・中(夜)
湯船に浸かる道夫。しな垂れた、髪。
道夫「このまま・・・このまま・・・」
道夫、髪を指で伸ばしながら呟く。
○同・道夫の部屋・中(夜)
机に座り、パソコンを開く道夫。
起動音。キーボードを叩く。
画面に、「癖毛同盟」というサイトが映り、続けて掲示板が開かれる。
掲示板の文字「剃刀ありがとう!さらば、鳥
の巣頭!」
というコメントがある。
食い入るように画面を見る道夫。
窓を打つ雨音が聞こえてくる。
○久米中学校2年一組・中(朝)
雨が強く窓を打つ。教壇に立つ弓子。
道夫の席が空いている。
弓子「出席を取ります、赤坂君・・・」
主席確認を続ける弓子。
と、教室の後ろからこそこそと入ってくる道夫。帽子を深く被っている。
弓子「あれ、高村君、遅刻?」
道夫、無言で頷くのみ。
道夫を見てにやつく一郎。
一郎「おい、帽子取れよ、室内だぞ!」
道夫に近づく一郎。帽子を取ろうとする。道夫、抵抗する。
道夫「やめろ!」
脱げる帽子。道夫つるつる頭である。
一郎「うわ!鳥の巣改め卵じゃんか!」
笑う一同。帽子を一郎から奪い返し被り直す道夫。
一郎「だから、室内だって。脱げよ!」
道夫、帽子を一郎に叩きつける。
一郎「おい、なん・・・」
道夫、一郎を殴る。騒然とする教室。
弓子、急いで二人の所へ行く。
馬乗りになり一郎を殴り続ける道夫。
弓子、道夫を引き離す。
道夫、泣いている。
一郎口が切れ、血が流れている。
立ち上がり、
一郎「くくくそ天パが!俺が何したって言う
んだよ!」
弓子、一郎を睨みつけ、
弓子「いい加減にしなさい!」
一郎「えっ?」
一郎の襟を掴み、
弓子「あんたも悪いんでしょうが!」
静まり返る教室。
道夫、涙を拭い、弓子を見つめる。
× × ×
雨がやんでいる。夕焼けで真っ赤な教室。一人、席に座り、何か書いている道夫。帽子を被っている。
文章の頭に「反省文」とある。
教室に入ってくる弓子。
弓子「できた?」
道夫「だいたい・・・」
道夫の前に座る弓子。後ろ髪をかき上げる。道夫、椅子ごと少し後ろに引く。
後頭を道夫に見せる弓子。傷がある。
道夫「な、なんです・・・」
弓子「6針縫ったの。剃刀でね」
道夫、鉛筆を机に置く。
弓子「高村君くらいのとき、癖毛が嫌でね、
そしたら坊主にしたら癖が取れる直毛になるって聞いて・・・」
道夫「そ、それで、どうなったんですか」
弓子「頭血だらけで病院よ」
道夫「髪は?」
弓子「みたまんま」
道夫「そうなんだ・・・」
弓子「そう、残念ながら高村君も」
道夫「えっ、僕は・・・」
弓子「ばかばかしいって思ったの。頭じゃな
くて気持が軽くなった感じ?」
道夫、俯き頭を撫でる。
弓子「便利よ、天パ。パーマは掛けやすいし。
ナチュラルヘアとか言えばなんとかあるし
道夫「そうかな・・・」
弓子「うん。隠そうとすると逆にきつい、と
その時感じた、私はね。まあ、同じ馬鹿やった仲間としての語ってみました」
弓子、反省文を預かる。
道夫、立ち上がる。
弓子「じゃ、職員室行こうか?」
道夫、笑顔で
道夫「はい」
帽子を脱ぎ、バックにしまう。
春子「いいの?」
道夫「室内なんで」
春子、大笑い。続けて道夫も大笑い。
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