200702061851000

Blog

シナリオ:芳香

10 9月 , 2015  


人 物
鈴木 孝介(29)喫茶店店員
加藤 忠雄(29)芸能プロダクション社員
森本 宗司(55)喫茶店店長
森本 真理(30)森本の娘
味坂 銀二(60)馴染みの客

○喫茶「モリモト」・外観(朝)
晴天。緑の外観に蔦がからむ二階建ての建物。ドアの横に「喫茶モリモト」と書かれた木の看板がある。

○同・中(朝)
カウンター中で、鈴木孝介(29)が珈琲を淹れている。横で、柿を剥く森本宗司(55)。カウンターに座る味坂銀二(60)。その客に珈琲を出す孝介。
孝介「お待たせしました」
珈琲を啜る味坂。笑顔になる。
味坂「へー、エチオピアの豆もいいねぇ」
孝介「ありがとうございます。蒸らしが上手
  くいかなくて自信なかったんですが」
味坂「森本ちゃん、いつ隠居してもいいね」
森本「馬鹿言うなよ、あっ、イテテ」
腰を押さえる森本。
味坂「ほら、ガタがきてら」
森本「うるせえ。頭にガタが来てる奴が、つまんねえこと言うな!これでも食ってろ!」
柿を味坂に渡す森本。
味坂「おっ、これは?」
森本「鈴木君の田舎のだよ」
味坂「へー、田舎は?」
孝介「山梨です」
味坂「ふーん。じゃあ親が農家なの?」
孝介「いや、親はサラリーマンです。妹夫妻
  が果物をやってるんです」
味坂「君格好いいから、妹も美人だろうね」
ちらりと孝介を見る森本。笑う孝介。
味坂「で、いつ真理ちゃん山梨連れてくの」
森本「な、何言ってんだよ、銀!」
孝介「そ、そうですよ!」
奥に引っ込む孝介。
と、ドアが開く。森本真理(30)である。目鼻立ちがはっきりした長身。
真理「また、銀ちゃん馬鹿言ってんでしょ」
味坂「あ、タイミング悪いな」
頭をかく味坂。
真理「孝介君、気にしなくていいからね」
会釈し、珈琲カップを拭く孝介。
その様子を眺める森本。

○同・玄関(夜)
玄関先を掃除する孝介。と、そこをカップルが通る。
カップル彼氏「昨日観た?『笑いの殿堂』」
カップル彼女「観た観た!ブルガリアンって
二人組!漫才かなりやばいよね!」
楽しげに、孝介の前を通りすぎる。箒を握り、カップルを睨む孝介。
孝介「あんなんのどこが・・・」
ぶつくさ言う孝介。
と、ドアが開き、森本が現れる。
気づき、再び掃除をし始める孝介。
森本「鈴木君、ちょっといいかな?」
森本に会釈する孝介。

○同・中(夜)
テーブルに座る孝介。森本が珈琲を二つ持って来る。珈琲を孝介に渡し、椅子に座る森本。珈琲を嗅ぐ孝介。
孝介「これ、ブラジル産ですよね」
森本「さすが。あまり蒸してないけど」
孝介、一口飲む。
孝介「すごい。酸味がいい」
森本、孝介を見る。気付き、カップを置く孝介。
森本「突然だけどね、相談があるんだ」
森本、珈琲を飲む。
森本「君が来て5年。筋がいいと思う。特に、
  鼻。嗅覚は抜群だ」
孝介「そんな、店長に比べたら」
森本「当たり前だよ」
孝介「は、はあ・・・すみません・・・」
珈琲をすする森本。同じく啜る孝介。
森本「最近ヘルニアがまずくてな」
森本煙草を付ける。
森本「先々店を回してもらおうと思ってる」
孝介「えっ、なんすか急に?」
森本「俺も引退ってじゃない。教えてないこ
  とも沢山ある」
森本、煙草を消す。
孝介「僕なんかが・・・それに急で・・・」
森本「そうだな。場末の喫茶の店長だし。た
  だ、いい返事が貰いたいとは思ってる」
孝介、珈琲を飲み、俯く。
森本「ついでだが・・・」
孝介、森本を見る。
森本「真理のことはどう思ってる?」
孝介「え?」
森本「いや、なんでもない!なんだ、あいつ
も三十路で俺が片親で心配だったりして、つい、ははは」
森本立ち上がる。
森本「銀二が変なこと言ったから!あのやろ
う!今度会ったら、どてっぱらに柿の二三個ぶちこんでやる!」
孝介「店長・・・」
珈琲を引き、去る森本。と、森本振り向き、
森本「妹さん、どう調子は?」
力無い笑顔で、
孝介「良くもなく悪くもなくです」
森本「そうか、治療費とか大丈夫?もし少し
  でも・・・」
孝介「いえ!大丈夫です!」
森本、うなずき、去る。
椅子に座る孝介。煙草を吸おうとする。
と、孝介の携帯が鳴る。孝介、携帯を見て、眉を顰める。

○「蟹大名」・外観(夕)
夕日に照らされる、動く蟹の看板。

○同・中(夕)
入口。入ってくる孝介。
と、向こうから手招きするスーツ姿の加藤忠雄(29)。手招きする手にはブルガリがはめられてある。
忠雄「孝介、こっち!」
孝介、歩き出す。

○同・テーブル(夕)
鍋や蟹料理が並ぶテーブル。むさぼる忠雄。
孝介「いいのか、ほんとに?」
忠雄「おお、食え食え!」
   恐る恐る食べる孝介。
孝介「どうした?久しぶりに会ったら蟹三昧
  なんて」
忠雄、指をしゃぶる。と、ポケットから名刺。
名刺を受取る孝介。
孝介「サンライズプロ取締役!なんで!」
忠雄「紆余曲折でな。お前はまだ珈琲屋?」
孝介「えっ、まあ・・・」
忠雄、日本酒を飲み、大きなため息。
忠雄「俺ボケ、お前突っ込み。天下取ろうと
  山梨クンダリから二人出てきて・・・」
孝介「な、なんだよ突然」
忠雄「やっぱ諦めないことだよ!孝介!」
孝介「んなこと言いに来たのかよ!だいたい、
  お前演者じゃねえじゃん!」
忠雄「孝介!」
忠雄、孝介の肩を叩き、
忠雄「もう一回やらないか、コント」
孝介「はっ?」
忠雄「今の立場なら、ゴールデンのコーナー
  位なら取れる。深夜なら司会枠もいける」
孝介「いや、俺はもう・・・」
忠雄「お前の間の取り方、いや、現場の空気
  を嗅ぎとれる嗅覚。天才的だと思う」
孝介「天才がなんで売れなかったんだよ」
忠雄「俺が生かせなかったんだ、お前を…」
孝介「そうだよ!自分のコントばかり優先で、
結果お寒い舞台!シベリア抑留だったよ!挙句は女でテレビすっぽかして!」
忠雄「ところが孝介!この雌をかける少年で
  ある俺が!サンプロの女社長を・・・」
孝介「そういうことか・・・」
忠雄「そう、正に取締役」
孝介「何が正にだよ!とにかく、芸人じゃな
  いんだ、俺は!」
忠雄、蟹の足を孝介に突きつける。
忠雄「一杯幾ら珈琲?500円位か?」
孝介、蟹の足を払いのけ、立ち上がる。
孝介「じゃあな!」
去ろうとする孝介。
忠雄「千杯分からスタートしないか。で、出
  来高で上げていくのはどうだ?」
動きが止まる孝介。
忠雄、蟹を食べる。
忠雄「いや、金じゃない。お前はそういう奴
  だ。これはお前への評価だと思ってくれ」
孝介、忠雄を見る。そして座る。
忠雄「すぐとは言わない。もし、決心がついたら、電話をくれ。なければ諦める」
忠雄、孝介の肩を叩き、
忠雄「二つ言わしてくれ。俺はお前を買ってる。そして、お前を待ってる。じゃ」
去る忠雄。一人残される孝介。

○喫茶「モリモト」・中
味坂の会計を孝介がしている。
孝介「はい珈琲一杯、290円になります」
290円を受け取る孝介。じっと小銭を見つめる。
不思議そうに孝介を眺め、出る味坂。
レジを開ける孝介。さびしい中身。
カップを洗う森本。テーブルを拭く真理。それを見る孝介。
孝介「あの・・・」
二人から同時に見られる孝介。二人を見返す孝介。
孝介「外掃除してきます・・・」
森本「ああ、ありがとう」
ドアを出る孝介。
手に携帯がある。
孝介「もしもし、俺。うん」
鼻で深呼吸する孝介。
孝介「お前から、勝ちの匂いがしたわ」
携帯を閉じる孝介。

著者プロフィール

ヤマシヤマTwitter:@danjiki_radio
1978年生まれ。出身地は福岡県久留米市。シナリオを勉強したり国語の勉強をしたりされたりしている。VX-2000を所持。 現在は東京の北東気味在住。東京を三国志で表すならば、魏らへん。

コメント

comments



Comments are closed.